1989年12月10日 後楽園ホール 


 後楽園ホールに来るのは初めて。FMWに来るのも初めて。前回の大仁田V S青柳を会場前まで来ていながら見逃したウサを今日晴らせる。週プロによる とすごく盛り上がった興行だったらしい。大仁田も見たいし、青柳も見たい。 しかしながら、今日は青柳は負傷欠場である。
 プリンセス・プリンセスの流れる会場は超満員。いつも全日のガラガラの会 場に慣れていたので、こういうのは新鮮だ。(注:この頃まで全日の会場は空 席が多いことで定評があった。現在とは隔世の感がある。)真新しいはずのリ ングはひどく汚れている。血痕だ。そんな中で、私が初めて生で観る女子プロ レスが始まる。

第1試合 里美和 VS 松田久美子

 会場のあちこちから「美和ちゃーん」と声援(ヤジ?)の声。里はそのルッ クスで、東京第2戦にして早くも人気を不動のものにした。しかし、試合が始 まると何もできず。松田がまったく腰の入っていないサッカーボールキックで 里を蹴りまくる。しかも、松田は蹴るたびに「はにゃっ」とつぶやく。試合を 見ながらNHKの「おーい、はにゃ丸くん」を思い出していたのは私だけかも しれないが、気の抜けるかけ声であることは確か。
 バックドロップの体勢に入った松田に里が空中で切り返す。リッキー・ステ ィムボードがよくやる、腹筋の力でくるっと回る奴。しかし、初めて出す技が これか? ヘッドロックもアームロックもやれん奴が華麗なフェイント技だけ は修得している。大仁田、後藤は何を教えているんだ?
 里はその後もただ蹴られ、力尽きて押さえ込まれた。まさに「スゴいものを 見た!」という気分である。

第2試合 タイガー・ジャクソン VS リトル・デビル

 初めて見るミゼット。どっちかがもう一方に浣腸をして、レフリーが「臭い、 臭い」のポーズ。私もシモ系な人間だが、この手の下品さはパス。私は前系ネ タは大好きだが、後ろ系でいけるのは美女のピチッとしたお尻ぐらい。茶色い ものに関してはできたら避けて通りたいと思う。

第3試合 徳田光輝 VS クラッシャー・デネス

 カッコいい柔道家徳田が登場。血に汚れたリングに白い柔道着が美しい。デネス はじゃらじゃら鎖を下げた身長2メートルの外人。徳田は得意のミサイル・キ ック、プランチャ(ん・・)で攻めるも、デネスのパワーにピン負け。お客さ んは空飛ぶ柔道家に沸いていました。
 ちなみに、後にIWA JAPANに真FMWの一人として登場したデニス ・ゴトーはこいつと同一人物でしょうか? 知っている方は教えてください。

第4試合 栗栖正信 VS 秋吉昭二

 メインの次に楽しみにしていた試合。旗揚げ戦の対ワキタ戦での栗栖のすさ まじさがすでに語りぐさになっていたので。私は栗栖の試合は日本武道館での 全日VSジャパン全面対決の中の一試合、対冬木戦くらいしか印象にない。そ の時は両者とも入場テーマもなしだった。栗栖は意表を突いたダブルアームス ープレックスやぬるい全日では新鮮に映る気合いの入ったアトミックボムズア ウェーで冬木を攻めたものの、冬木の素晴らしくブリッジの効いたジャーマン に敗退。しかし、ジャパン勢の中で最も新日出身らしいたたずまいを感じさせ たのが、この栗栖だった。
 果たして、栗栖はFMWのリングでは魅力全開だった。秋吉を渾身の力を込 めた喉元へのチョップで吹き飛ばし、倒れた秋吉を踏みつけ、パイプ椅子でめ った打ち。関節技での攻防でもV2アームロックで絞り上げる。秋吉は何ひと つできない。栗栖が容赦なく秋吉の顔を蹴り上げたところ、秋吉が失神。レフ ェリーストップで、栗栖の勝ち。これは試合ではなく、リンチかしごきだ。
 隣の席の友人は秋吉を「こりゃだめだ」と評したが、私はこの男の根性、素 質を感じ取っていた。今になって、それが間違いでなかったと思う。この日の 経験は無駄ではなかったのだ。秋吉はその後天龍とシングルでやっても、その 度胸で天龍を納得させるほどのレスラーになった。今や秋吉(邪道)は間違い なくプロレス界のトップレスラーの一角にいる。

第5試合 浅子文晴 VS モンキーマジック・ワキタ

 入場してきた浅子のキングサイズどころじゃないゴムマリのような体格にど よめきが起こる。彼は今や少なくなった、体だけで観客を納得させることので きるプロレスラー(あ、サンビストか。)の一人だ。ちょっと、意味は違うが。 相手のワキタがかなり小さく見える。
 しかし、試合が始まると、観客を沸かせたのはワキタだった。ワキタはとに かくドロップキックが素晴らしい。実に力強く蹴り上げ、浅子を吹き飛ばす。 身の軽いワキタが飛び技で攻めまくり、時折それを捕らえた浅子が体重で押し つぶすという、牛若丸対弁慶(ともに伝説上の人物。PWC時代の南条と保坂 のことではない。)のような試合。
 最後は浅子のアバラッシュホールドでワキタがピン負け。しかしワキタは旗 揚げ戦で栗栖に何もできずぶちのめされた汚名を見事晴らしてくれた。

第6試合 デスピナ・マンタガス VS デルタ・ダーン

 マンタが登場した途端、「母ちゃーん」という声援。後藤の母ちゃんはすご く強そうで、綺麗だ。(余談だが、後に仕事上で私と後藤夫妻は直に会うこと になる。T後藤は実に腰の低い、好感の持てる人物だった。奥さんの方は私服 を着ていると、全然普通の体格に見えた。私がT後藤に「あなたの熱狂的なフ ァンです」とよけいなことを言うと、T後藤は「ありがとうございます」と言 って、私に向かって深々と頭を下げた。この人が今のFMWにいてくれたらと、 いつも思う。)
 試合はよく覚えていない。ルダックが入ってきて、マンタを一撃。デルタが 男の助けを借りて、勝った。

第7試合 ディック・マードック VS ジョー・ルダック

 なんともインチキくさいFMWに超大物ディック・マードックが参戦! マ ードックは確実にFMWにハクを付けてくれた。(「ハク」は「箔」の意味。 キング・ハクのことではない。)相手は国際プロでエース級として活躍し、そ の後全日で中堅外人の位置をキープしていたルダック。相手に不足はない。
 聞き慣れたマードックの入場テーマに会場が盛り上がる。現れたマードック はバンザイポーズ。皆さん、バンザイで応える。
 この試合が素晴らしかったのはここまで。あとはひたすらアメプロパンチの 応酬。ルダックがノビた。ブレインバスターもカーフブランディングもなし。 隣に座っていた、独り言の多い奴が「うーん、期待はずれだなあ」と つぶやく。大技をひとつも使わず試合を作れる二人に感心した。観客の反応な どまるで気にしない二人に感心しすぎてしまった。

第8試合 大仁田厚、ターザン後藤 VS 松永光弘、ジェリー・ブレネマン

 日本初の有刺鉄線デスマッチで、しかも異種格闘技戦、なおかつタッグマッ チ。初物尽くしでんな。ワケ、わからん。
 里らが不器用にリングに有刺鉄線を張ってゆく。軍手していたって巻く方も 痛いだろうな。かなり時間がかかる。
 試合形式であるが、現在のFMWがやっているノーロープ有刺鉄線デスマッチ とは違う。ロープがあるのだ。有刺鉄線はコーナーポストの外側に巻かれてお り、最近のトルネードルールではない通常のタッグマッチなので、控えの選手 はロープと有刺鉄線に挟まれた狭い場所で待機していることになる。これ、け っこう嫌だ。
 試合が始まる。セコンドはプロレス側が栗栖、空手側が青柳。ブレネマン (後に藤原組にあがったジェリー・フリン)は身長はあるが、細い。おとなし そうな顔をしているが、攻めは激しい。松永、ブレネマンが大仁田を蹴りまく る。下がる大仁田はついに有刺鉄線の餌食。会場はものすごい怒号の嵐。そん な馬鹿な! 猪木と上田のネールデスマッチは釘になんか触れはしなかったぞ。 触れそうになりながら、きわどいところで逃げる。それが猪木のデスマッチだ ったが…。目の前で展開される惨劇に観客は喚くばかり。ブレネマンは控えの 後藤まで蹴っぽる。体勢を崩した後藤は…、ああ、案の定背中から有刺鉄線へ。
「大仁田コール」「後藤コール」の中で反撃開始。プロレス技なんて使わない。 ケンカに効くのは頭突きや。大仁田、後藤は相手の頭をむんずと捕まえ、自分 の頭を振り下ろす。痛いぞ、これ! 松永が浴びせ蹴りを放つ。実はプロレス 好きだろ、お前。(後にわかることだが、松永はまさにレスラー魂を持った空 手家だった。)
 ブレネマンの攻めに一瞬の隙ができたのを大仁田は見逃さなかった。ラリア ット、バックドロップ、そして、噂のサンダー・ファイヤー・パワー・ボム!  しかし、腕に深手を負った大仁田も立ち上がれない。両者KOか? 近くの おやじが「大仁田、あんな傷でだらしねえなあ」と叫ぶ。よけいなお世話だ。 (この試合で負った大仁田の腕の傷の深さは数日後に発売されたFRIDAY で明らかになる。)
 しかし、大仁田は立った。10カウントぎりぎりで立ったプロレス側の勝ち。 大仁田はマイクで叫ぶ。
「皆さん、僕はプロレスの方が強いと思います! 青柳、お前も男なら上がっ てこいよ!」
 会場は大熱狂。「なにー」とばかりに青柳が上がって、大仁田に突っかかる。 すると、栗栖も上がった。「栗栖コール」が沸き上がる。3対3の様相。青柳、 きれいなローリングソバットで大仁田を吹き飛ばす。倒れた大仁田だが、すく っと立ち上がると、青柳の後頭部にエルボー!
 こんなに興奮したことは今までのプロレス観戦で一度もなかった。鶴田VS 天龍も生で見た。ロード・ウォリアーズも見ている。でも、私が感銘を受けた のはこのプロレスだった。この瞬間、私は10年間以上慣れ親しんだ全日本プ ロレスを捨て、FMW者として歩み始めたのだ。
 時間が流れ、FMWのマットにも世代交代が行われつつある。しかし、この 時初めて感じたFMWの生々しいライブ感は今も失われていない。生で観ても テレビで見ても変わらないプロレスなら、テレビで見ればいい。FMWには会 場でしか体感できない何かがあるのである。
 あと、嬉しいと思うのはこの日登場した若い人たちがその後大きく成長して くれたことだ。ワキタ(デルフィン)、秋吉(邪道)はもはや全国区の選手。 松永は今ちょっとステーキ屋に専念しておるが、デスマッチ王「ミスター・デ ンジャー」としてスバーンとも闘い、ムタをフッてやった。徳田はカルト・ヒ ーローになり、BFEのエース。まだレフェリーだった上野、市原も海外遠征 にも出かけてしっかりプロレスを続けておる。
 考えてみれば、浅井(ウルティモ・ドラゴン)だって、FMWに来日する予 定だったんだよな。旗揚げのカードにはしっかり名前入っていたんだから。大 仁田がこんな無茶な旗揚げを考えないで、相変わらず道路工事やっていたら、 プロレス界は全く違ったものになっていただろう。FMWが成功して、他の多 くのインディー団体も旗揚げしたんだし。この状況を良いとするかどうかは人 それぞれだろうが。


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